誕生日プレゼント~~その後

「誕生日プレゼント~~その後」                  ひがし

「………………」

ベッドの上を無言で転がるさくらをケルベロスはジト目で見つめていた。
先週までの機嫌のよさがウソのようなふてくされ様だ。
帰ってきてから「ただいま」以外、一言も口を聞いていない。
枕を抱きしめてベッドの上をゴロゴロ転がり続けている。
無茶苦茶に機嫌が悪そうだ。
ケルベロスの方を見ようともしない。
ガン無視である。

だが、ケルベロスにはわかる。
これはケルベロスを無視しているのではない。
逆だ。
ケルベロスのツッコミを待っているのだ。
胸の中にぶちまけたい鬱憤がたまっている。
しかし、それを自分から言い出すのはちょっとみっともない。
なので、適当な誰かにツッこませてそこで鬱憤を爆発させようとしている。
そんな状態なのだ。
そして、その“適当な誰か”が自分であることもケルベロスは重々承知している。
無言のさくらの背中から「ケロちゃん、早くツッこんでよ!」という声が聞こえてくるかのようだ。
ハッキリ言ってツッコミたくない。
また、しょーもない話を聞かされるのは目に見えている。
どうせまた、あの小僧がらみの話だろう。
あの小僧が絡むとさくらの話はワケのわからんものになる、それがケルベロスの正直な感想だ。
なのでツッコミたくない。
無視してゲームでもしていたいところなのだが、そうはいかないのが居候の悲しいところ。
しゃーないな……と覚悟を決めてさくらに話しかけてみた。

「なあ、さくら。今日はどうしたんや。ずいぶん機嫌が悪いみたいやけど」
「それがね、ケロちゃん! 聞いてよ!」

思った通りの喰い付きのよさである。
待ってました! とばかりに飛び起きて答えてきたものだ。
やれやれと思うがここで逃げるわけにはいかない。

「なんやなんや。何があったんや。またあの小僧となんかあったんか」
「そうなの! ほら、この前、小狼くんに携帯ストラップをプレゼントしたでしょ」
「あぁ、あれか。この前言っとったやつやな。あれがどうしたんや。あの小僧、やっぱりあんなファンシーなもん使ってられんとか言い始めたか」
「ううん。小狼くんはちゃんと使ってくれてるよ」
「ならええやないか」
「それはいいんだけど~~。あのね。あれを見たクラスの女の子たちがね」
「小僧を笑いものにでもしたか」
「ううん。みんな真似してあのストラップを使い始めちゃったの」
「は?」

さくらが言うには、小狼と同じストラップを使うのがクラスの女の子たちの間でちょっとしたブームになっているらしい。
小狼にプレゼントしたストラップはツインベルで買ったのだが、目ざとい子がツインベルで同じものを見つけて使い始めたのがきっかけだったようだ。
予想はしていたが、やはりケルベロスにはさくらの話が理解できない。
小狼はさくらに貰ったストラップを使い続けている。
そして、同じものをクラスの女の子たちも使い始めた。
そこまではわかる。
しかし、その先がわからない。

「小狼くん、お勉強もできてスポーツもできるから女の子たちに人気があるの。それで、みんな小狼くんの真似を始めちゃったみたいなのよ」
「ほうかほうか。それで?」
「それでって……」
「小僧はさくらの贈ったストラップを使い続けとる。それをクラスの女の子たちが真似し始めた。そこまではわかった。で、それがどうしたんや。それがさくらに何か関係あるんか」
「だって、なんかイヤなんだもん。他の子が小狼くんと同じもの使ってるっていうのが。なんて言うか~~小狼くんをとられちゃったみたいな気がするの」
「はぁ~~? なんやそれ。あんな小僧、誰にでもくれてやればいいやないか」
「そんなのダメ! 小狼くんはわたしのなの! 他の子にはあげたくないの!」
「っっ、耳元で大声出すな! まったく、なんなんや。そんなんだったら簡単やろが。さくらも小僧と同じストラップを使えばええんや。さっさと行って買ってこいや」
「それはその~~なんて言うか~~。小狼くんとペアっていうのはなんか恥ずかしくて~~」
「なんじゃそりゃぁ! 他の子が小僧と同じのを使うのが気に入らん? でも、自分が小僧と同じのを使うのは恥ずかしい? アホか!」
「アホってなによ! ケロちゃんには乙女心がわからないの!」
「そんなん、わかるか! だいたい、なにが乙女心や。そんなふくれっ面した乙女はおらんわ!」
「なんですって~~!!」
「おい、怪獣! さっきから何を一人で騒いでるんだ! うるさいぞ!」

☆……☆……☆……☆……☆……☆……☆……☆……☆……☆……☆

これは、さくらが“自分の本当”の気持ちに気づくよりもほんの少し前のお話。
「小狼くんはわたしの」とか、かなり自覚はしてるみたいなのですが。
さくらが自分の本当の気持ちに気がつくまであと少し……なのか?

END

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