誕生日プレゼント

誕生日プレゼント(桜→小狼)                 ひがし

「♪♪~~♪~~~」

鼻歌を漏らすさくらをケルベロスはジト目で見つめていた。
今日のさくらはどこかおかしい。
やけに陽気だ。
最初はまた雪兎と何かあって「はにゃ~~ん」となってるのかと思ったが、どうもそうではないらしい。
一見、いつもの「はにゃ~~ん」と同じに見えるが、いつもの「はにゃ~~ん」とはどこかが違う。
どこが違うのかと聞かれてもうまく説明はできないが、何かが違うことだけはわかる。

「なあ、さくら。今日はやけに嬉しそうやな。なんぞ、ええことでもあったんか」

さすがに気になってさくらに尋ねてみたが、さくらの答えはケルベロスには理解不能なものだった。

「うふふ。ね、聞いて聞いて! あのね、小狼くんがね」
「おう、あの小僧がどうした」
「わたしのプレゼントした携帯ストラップ、ちゃんと使っててくれたの!」
「はぁ?」

さっぱりわからない。意味不明だ。
いや、さくらの言っていることの意味はわかる。
さくらの言う「携帯ストラップ」は、先週の小狼の誕生日にさくらが誕生日プレゼントとして小狼に贈ったものだ。
知世と一緒に買いに行って、さんざん迷った挙句に選んだものだというのは聞いていたし、プレゼントする前に実物も見せられている。
たしか狼をデフォルメした可愛らしいストラップだったと記憶している。
そこまではわかる。
わからないのはその先だ。

「で?」
「で、ってなによ」
「それのどこがそんなに楽しいんや。まあ、かなりファンシーなストラップやったからな。小僧があれを使ってるかと思うと笑えんこともないが」
「も~~、ケロちゃんにはわからないの!? あの小狼くんがわたしのプレゼントをちゃんと着けててくれたんだよ? それに、それだけじゃないの」
「なんや。なんか他にもあるんか」
「ほら、ホワイトデーに小狼くんにペンケースを贈ったでしょ? あれもちゃんと使っててくれるの。どう? すごいでしょ」

そう言われても全然わからない。
ストラップもペンケースも少女趣味の入った可愛らしいものなので、あれを小狼が使っているところを想像するとたしかに面白い。けれど、さくらが喜んでいるのはそういう類の可笑しさではないようだ。

「だから、それのどこがそんなに楽しいんや。小僧がさくらのプレゼントをちゃんと使ってるっちゅうのはわかった。けど、それだけやないか。別に面白いことなんかあらへん」
「あのね、ケロちゃん。プレゼントっていうのはね、心を込めた贈り物なの。それを大事に使ってくれるっていうのはね、その人がわたしの心を大事にしてくれている、っていうのと同じことなの」
「ふむふむ」
「だからね。わたしのプレゼントを大事にしてくれる、っていうのは小狼くんがわたしの心を大事にしてくれてる、ってことなの。どう? これでわたしが嬉しい理由もわかったでしょ」
「いや。全然わからん」
「なんでよ!」
「や、なんちゅうかな。さくらの言うてることはわからんでもないんや。けどな。そんなん、兄ちゃんも知世も雪兎も同じやろ。みんなさくらのプレゼント、大事に使うてくれてるで」
「そ、それはそうだけど」
「なのに、なんであの小僧の時だけそんなに嬉しがっとるんや。なんぞ、他に理由でもあるんとちがうのか?」
「なんでって・・・」

言われてみてさくらも気がついた。
ケルベロスの言うとおりだ。
桃矢も知世も雪兎もさくらからのプレゼントは大事に使ってくれている。
それをさくらは何度も見ている。
それに感謝はしていたけど、今ほどの喜びを感じたことはない。
みんながさくらの心を大事にしてくれている。それは嬉しい。
でも、今のこの嬉しさはそれとは違う。
もっと特別な何かだ。
あの小狼が自分の心を大事に思ってくれている。
それがとても嬉しい。
なんだがわからないけど、心がキューッっとなる。
それはどうしてなんだろう?
なんで「特別」な気持ちになるんだろう?
どうして?
それは、小狼が自分にとって「特別」だから?
知世や雪兎とは違う、「特別」な相手だから?
特別に「―――」な相手だから・・・?

「なんでもいいの! 小狼くんがわたしのプレゼントを使ってくれてるのが嬉しいの! それだけなの!」

混乱しかけた自分の心を誤魔化すかのようにさくらは大声をあげた。

「そうかい。ま、わいにはどうでもええわ」

ケルベロスはそれには特にツッコミを返さなかった。
実際、彼にはどうでもいいことだったからだ。
小狼がさくらのプレゼントをどう扱おうと、自分の知ったことではない。
興味が失せたのか、ガサゴソとゲーム機を引っ張り出してゲームを始める。
そんなケルベロスの背を見ながら、今度はさくらが考え込んでいた。

(ケロちゃんの言うとおりだ・・・。わたし、何でこんなに嬉しがってるんだろう。でも! 嬉しいのは本当だよ。小狼くんがわたしのプレゼントを大事にしてくれてるのが嬉しい・・・とっても。なんでかわかんないけど。小狼くん・・・)

・・・・・・・・・
・・・・・・
・・・

これは、さくらが自分の「本当の気持ち」に気づくよりもほんの少しだけ前のお話。

END

 

<管理人茶々のコメント>

 この話はひがしさんの桜と小狼の小学生時代の小狼誕生日話です!原作のバレンタイン話を元にして書かれたものでしょうか?バレンタイン話でさくらちゃんが何故か、チョコレートを多めに作っちゃった話がありました!本人には自覚はないけど、あの時から、小狼君の事が好きだった様です!さくらちゃんはその事に気付かず、小狼君にはチョコレートをあげませんでした!さくらちゃんは二度目のお祭りの時に小狼君の事で赤面してたなあ!

 ひがしさんの小説は相変わらず、素敵です!サイト復活おめでとうございます!

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