宿命の人?
宿命の人?           ひがし
 
「さくら。今日は何かあったのか」
 
学校からの帰り道、小狼はさくらにそう尋ねてしまった。
さくらの表情が妙だったからである。
いつものような明るい笑顔を見せてくれない。
かと言って、暗く沈んでいるのでもない。
何と言ったらいいのか。
非常にびみょ~~な顔をしていたからである。
また、何かあったのか。それとも誰かに何か言われたのか。
そう思っての質問だったのだが、さくらの答えはこれまた、なんともびみょ~~なものだった。
 
「ん~~とね。昨日の初恋の話、覚えてる?」
「もちろん覚えてるよ。あれがどうかしたのか」
「あのね。みんなにね。わたしと小狼くんって初恋の相手が同じだから、ひょっとしたら運命の人かな~~って言ってみたの」
「なっ!? お前、あれをあいつらに喋ったのか!?」
「うん」
 
さらっと流されたさくらの爆弾発言に、小狼はサーっと血の気が引いていくのを感じた。
 
さくらの初恋の人 = 雪兎 = もちろん男の人
小狼の初恋の人 = さくらと同じ人 = とうぜん男の人
= 李くんの初恋の相手は男の人!
 
非常に不幸なことだが、現在、これが女の子たちにどう受け止められるかを小狼はよく知っている。
明日から女子にどんな黄色い目で見られることか・・・それを思うと頭が痛い。
そんな小狼の苦悩を無視してさくらの告白は続く。
 
「そしたらね。奈緒子ちゃんがそれはどうかな~~って言い出して」
「どうしてだよ」
「奈緒子ちゃんが言うにはね。それは運命の人じゃなくて、宿命のライバルなんじゃないかって」
「はぁ~~? ライバル~~??」
「ほら、小狼くんとわたしって雪兎さんを取り合っていろいろやってたでしょ? 奈緒子ちゃん、あれを覚えてるみたいなの。それに、小狼くん最初のころはわたしのことスッゴイ目で睨んでたでしょ」
「あの頃はお前のことをクロウ・カードのことでも、あの人のことでもライバルだと思ってたからな」
「それでね。奈緒子ちゃんにね。アレは絶対に悪いことを企んでる目だった! 李くん、さくらちゃんにヒドイことをするつもりだったんよ! って力説されちゃったの」
「と、とんでもない言いがかりだ! たしかにお前のことはライバルだと思ってたけど、オレはいつでも正々堂々勝負するつもりだったぞ! そ、それになんだ。昔の話だろ。今はお前のことを睨んだりしてないだろ!」
「それが~~」
「それが、なんだ! まだ何かあるのか!」
「奈緒子ちゃんが李くんは今でもさくらちゃんのこと、スッゴイ怖い目で睨んでるって言うの。今でも李くんにとって、さくらちゃんはライバルなんじゃないかって。小狼く~~ん、ホントなの?」
「本当のわけあるか! 前から言ってるだろ! 柳沢の言うことは真に受けるな!」
「ホントにホント? わたしのこと睨んだりしてない?」
「ホントにホントだ! だいたい、何でオレがお前のことを睨んだりしなきゃいけないんだ。あいつ、本の読みすぎでまた目が悪くなったんじゃないのか?」
「そ、そうだよね。うん! やっぱり小狼くんはわたしの運命の人でいいんだよね!」
 
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小狼の答えに安心したのか、明るい表情を取り戻すさくら。
 
だが。
 
今度は小狼の表情がびみょ~~なものになっていた。
それは、奈緒子の指摘がモロに図星だったためである・・・・・・
 
指摘1:宿命のライバルなんじゃないか
→その通り。
まさにそう考えていた。
こいつこそ、オレの宿星の前に現れた最大の障壁! 劫魔! 怨敵!
こいつを倒してこそ、オレの未来は開ける!
そう考えていた時期がたしかにあった。
 
指摘2:アレは絶対に悪いことを企んでる目。さくらちゃんにヒドイことをするつもりだった
→その通り。
あの時分はクロウ・カードを取り返すこと、雪兎の気を引くことで頭がいっぱい。
どんな手を使ってでもアイツを蹴落とす!
そのためにはどんな汚い手を使ってもかまわない!
お菓子を餌にしてケルベロスのやつを捕まえて・・・・・・
それとも大道寺のやつを人質にして・・・・・・
そしてあ~~んなことやこ~~んなことを・・・・・・
以下略。
 
指摘3:今でもさくらちゃんのこと、スッゴイ怖い目で睨んでる
→その通り。
正確にはさくらの周りを睨んでいる。
これは、ちょっと目を離すとすぐにさくらの周りに群がってくる男子を牽制するため。
さくらはオレのものだ!
お前らは見るな! 寄るな! 触るな!
さくらが汚れる!!
という目。
 
・・・・・・・・・・・・。
どれもこれも図星である。
そして到底さくらには言える内容ではない。
心を許しあった仲でも言わない方が、というか口が裂けても言えないことがある。
 
(これはこの先も絶対にさくらには言えないな・・・・・・)
 
自分だけの秘密がまた一つ増えてしまったことにため息をつく小狼だった。
 

END

<管理人茶々のコメント> 

 

 

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